ハッシュは、データの「指紋」のような役割を果たす仕組みです。これにより、入力されたデータ(文字列やファイルなど)を 固定長のハッシュ値 に変換します。ハッシュには、特定の安全性を保証するために必要な性質があります。

ハッシュの主要な特徴

  1. 元のデータを特定できない(不可逆性)
    • 暗号学的ハッシュは、一方向 の計算です。つまり、元のデータ(入力)からハッシュ値(出力)を計算するのは簡単ですが、ハッシュ値から元のデータを逆算することは 非常に難しい です。
    • : パズルの完成図(ハッシュ値)を見ただけで、どのピース(元のデータ)が使われたかを正確に当てるのは不可能に近いという感じです。
  2. 異なるデータは異なるハッシュ値を持つ(衝突耐性)
    • 異なるデータからは 異なるハッシュ値 が計算されるべきです。同じハッシュ値が別々のデータから生成されることを ハッシュ衝突 と言いますが、暗号学的ハッシュでは、この衝突が発生する確率が非常に低く設計されています。
    • : 二人の人が違う指紋を持っているのと同じように、異なるデータは異なるハッシュ値を持つはずです。
  3. 少しの変更で全く違うハッシュ値になる(アバランチ効果)
    • 元のデータがほんの少しだけ変わっても、ハッシュ値は大きく変わります。これをアバランチ効果 と呼びます。これにより、データが改ざんされたことがすぐにわかります。
    • : 1文字だけ違う文章でも、全く別のハッシュ値が生成される。たとえば「apple」と「Apple」は、ハッシュ値が大きく異なります。
  4. 固定長の出力
    • 暗号学的ハッシュ関数は、どんな長さのデータを入力しても、固定の長さ のハッシュ値を出力します。例えば、SHA-256というハッシュ関数では、常に256ビット(64文字)のハッシュ値が生成されます。
    • : 1ページの文章でも、1000ページの本でも、ハッシュ値の長さは同じです。
  5. 計算が効率的
    • ハッシュ関数は、元のデータからハッシュ値を計算するのが 非常に速い です。そのため、大量のデータや複雑なファイルでも、すぐにハッシュ値を生成できます。
    • : あなたが長いメッセージを送る前に、その「指紋」を作るのに、ほんの一瞬しかかかりません。

ハッシュの使い道

  1. データの整合性確認
    • データが 改ざんされていない かを確認するために、元のデータのハッシュ値を計算しておき、後でそのデータが正しいかどうかを比較することができます。
    • : ダウンロードしたファイルのハッシュ値が、提供元のハッシュ値と一致していれば、ファイルが壊れたり改ざんされていないことが確認できます。
  2. パスワードの保存
    • サービスやアプリがパスワードを直接保存せず、パスワードの ハッシュ値 だけを保存します。ユーザーがログインするとき、入力されたパスワードのハッシュ値を計算して、保存されているハッシュ値と照合します。
    • : パスワードが盗まれても、ハッシュ値しか保存されていないので、元のパスワードを簡単に推測することはできません。
  3. デジタル署名や認証
    • 電子文書や通信の安全性を確保するために、ハッシュ関数を使って、デジタル署名 を行います。これにより、送信者が正当であることや、データが改ざんされていないことを証明できます。
    • : メールが送られた際、内容が改ざんされていないことを確認するために、ハッシュ値を利用します。

代表的なハッシュアルゴリズム

ハッシュアルゴリズムは、データの「指紋」を作る技術で、データの改ざん検知やデジタル署名に利用されます。

  • SHA-256(Secure Hash Algorithm 256-bit)
    • SHA-2ファミリーの一つで、256ビットのハッシュ値を生成します。セキュリティが高く、ブロックチェーンなどで使われています。最も広く利用されているアルゴリズムの一つです。
  • SHA-3
    • SHA-2の後継であり、より新しいハッシュアルゴリズム。強力な耐性を持っています。
  • MD5(Message Digest Algorithm 5)
    • 一時期は広く使われていましたが、現在では 脆弱性 が発見され、安全性が低いとされているため、重要なセキュリティ用途では推奨されていません。
  • SHA-1
    • 以前は標準的に使われていましたが、現在は脆弱性が指摘され、SHA-2やSHA-3に置き換えられています。
  • RIPEMD-160
    • SHAの代替として設計されたハッシュ関数の一つ。160ビットのハッシュ値を生成します。
  • bcrypt
    • パスワードのハッシュ化に特化したアルゴリズムで、ブルートフォース攻撃に対して高い耐性を持っています。
    • パスワードの保存に利用することで、パスワードの漏洩リスクを軽減できます。

まとめ

ハッシュは、データの「指紋」を作る技術で、次のような性質があります。

  • 不可逆性: ハッシュ値から元のデータに戻すことができない。
  • 衝突耐性: 異なるデータは異なるハッシュ値を持つ。
  • アバランチ効果: わずかな変更で大きくハッシュ値が変わる。
  • 固定長の出力: 出力されるハッシュ値の長さは一定。
  • 計算が速い: データの量に関わらず、すぐにハッシュ値を計算できる。

これらの性質により、ハッシュはデータの安全性や信頼性を高めるために広く使われています。