共通鍵暗号について
共通鍵暗号(対称鍵暗号)の性質は、データを暗号化するためと、暗号を解く(復号する)ために同じ鍵を使うことです。これにはいくつか特徴があります。
特徴
- 同じ鍵を使う
- 速い処理速度
- 鍵を安全に渡す必要がある
- 鍵の管理が重要
- 共通鍵暗号にはいくつかの規格がある
1. 同じ鍵を使う
共通鍵暗号では、データを暗号化する際に使う鍵と、復号する際に使う鍵が 同じ
です。データをやり取りする相手と同じ鍵を共有していれば、お互いにデータを暗号化・復号できます。
例 : あなたが友達と秘密のメッセージをやり取りするために、事前に「合言葉」を決めておくような感じです。その合言葉を使って暗号化し、同じ合言葉を使ってメッセージを復号します。
2. 速い処理速度
共通鍵暗号は、暗号化と復号の処理が とても速い
です。たくさんのデータを暗号化する場合でも、短時間で処理できます。これは、共通鍵暗号が大きなファイルやリアルタイムのデータ通信(例えばビデオ通話など)に向いている理由です。
例 : 大量のファイルや動画を送るときに、効率よく暗号化・復号できるので、待ち時間が少なくなります。
3. 鍵を安全に渡す必要がある
共通鍵暗号の最大の問題は、その鍵(合言葉)を安全に相手に渡す方法
です。もし鍵が誰かに盗まれたり知られてしまったら、その人がデータを簡単に解読できてしまいます。だから、鍵の共有方法がとても大事です。
例 : 友達に「合言葉」を教えるときに、他の人に聞かれないように気を付ける必要があります。
4. 鍵の管理が重要
共通鍵暗号の安全性は、鍵が誰にも知られないこと
にかかっています。鍵が漏れてしまうと、データは簡単に復号されてしまいます。そのため、鍵の管理がとても重要です。
例: 合言葉が誰かにバレたら、その人もあなたの秘密のメッセージを読むことができてしまうのと同じです。
5. 共通鍵暗号にはいくつかの規格がある
共通鍵暗号にはいくつか種類があり、どれも暗号化の方法が異なりますが、基本的な性質は同じです。代表的なアルゴリズムには以下のものがあります。
- AES(Advanced Encryption Standard): 非常に安全で、現在最もよく使われている暗号方式です。
- DES(Data Encryption Standard): 以前は標準的に使われていましたが、現在は安全性が弱いため、あまり使われていません。
メリットとデメリット
メリット
- 高速 : 大量のデータを短時間で処理できる。
- シンプル : 同じ鍵を使うので、仕組みが比較的簡単。
デメリット
- 鍵の共有が難しい : 鍵を安全に相手に渡すのが課題。
- 多人数で使うと複雑 : たくさんの人とやり取りする場合、全員と別々の鍵を使うと鍵の管理が難しくなる。
共通鍵暗号が使われているもの
- Wi-FiのWPA/WPA2/WPA3
- Wi-Fiネットワークのセキュリティプロトコルは、共通鍵暗号を使用して通信データを暗号化します。例えば、AES(Advanced Encryption Standard)が使われます。
- VPN
- VPNでは、ユーザーとVPNサーバー間の通信を保護するために共通鍵暗号が使用されます。ここでもAESがよく使われます。
- TLS/SSL
- TLS/SSL(例えばHTTPS通信)の初期段階では公開鍵暗号が使われますが、その後の通信は共通鍵暗号によって保護されます。
- ファイルの暗号化ソフトウェア
- 例として、BitLocker(ディスク暗号化ソフトウェア)は、共通鍵暗号を用いてデータを暗号化します。AESが使われています。
まとめ
共通鍵暗号は、同じ鍵
でデータの暗号化と復号を行う方法です。処理が速いという利点がありますが、鍵を安全に共有する方法が難しい
という課題があります。だからこそ、しっかりと鍵の管理を行うことが重要です。
もし鍵の共有が難しい場合は、公開鍵暗号
という別の暗号方式を組み合わせることもあります。
公開鍵暗号について
公開鍵暗号(非対称鍵暗号)は、暗号化と復号に 異なる鍵
を使う暗号方式です。この性質により、安全にデータをやり取りするための強力な仕組みが提供されています。
特徴
- 公開鍵と秘密鍵の2つの鍵を使う
- 鍵の共有が簡単
- 安全な通信を実現
- 暗号化とデジタル署名の役割がある
- 処理が遅い
1. 公開鍵と秘密鍵の2つの鍵を使う
公開鍵暗号では、2つの鍵
を使います。
- 公開鍵: 誰でも知っていてよい鍵。これは、データを暗号化するために使います。
- 秘密鍵: 自分だけが持つ鍵。これは、暗号化されたデータを解読(復号)するために使います。
重要なポイントは、公開鍵で暗号化されたデータは 秘密鍵でしか解読できない
ということです。
例 : あなたが公開鍵を誰にでも配ると、その人はあなた宛に暗号化されたメッセージを送ることができますが、それを読むことができるのはあなた(秘密鍵を持っている人)だけです。
2. 鍵の共有が簡単
共通鍵暗号では、鍵を安全に相手に渡すのが難しいですが、公開鍵暗号では 公開鍵を自由に配ることができる
ので、この問題を解決しています。公開鍵を持っている人なら誰でも、あなたに暗号化されたメッセージを送ることができますが、解読できるのは秘密鍵を持っているあなた自身だけです。
例 : あなたが学校の掲示板に「これが私の公開鍵です!」と書いておけば、誰でもあなた宛に暗号化メッセージを送れるけれど、その内容を読めるのはあなただけです。
3. 安全な通信を実現
公開鍵暗号は、インターネット上で 安全な通信
を実現するための基礎技術です。たとえば、ウェブサイトが使う HTTPS
は、公開鍵暗号を使って、ユーザーとウェブサイトの間の通信を暗号化し、他人が通信内容を盗み見たり、改ざんすることを防ぎます。
例: ネットショッピングをするとき、クレジットカード情報などの重要なデータが公開鍵暗号を使って安全にやり取りされます。
4. 暗号化とデジタル署名の役割がある
公開鍵暗号には、暗号化
と デジタル署名
という2つの主な使い方があります。
暗号化
データを 秘密鍵で復号できるように
暗号化します。これにより、公開鍵で暗号化したデータは、持ち主しか解読できません。
デジタル署名
デジタル署名は、送信者が本当にその人であることを証明する仕組みです。これには逆に、秘密鍵で署名
し、その署名を 公開鍵で確認
するという方法を使います。もし公開鍵で署名を確認できれば、それは確実に秘密鍵を持っている人(送信者)が作成したものだとわかります。
例 : あなたがメールを送るとき、秘密鍵で署名をしておけば、受け取った相手は「このメールは確かにあなたが送ったものだ」と確認できます。
5. 処理が遅い
公開鍵暗号は、共通鍵暗号に比べて処理が 遅い
という欠点があります。そのため、公開鍵暗号は通常、共通鍵を安全にやり取りする
ために使われます。その後のデータ通信は、共通鍵暗号の方が速いので、それを使って行われます。
例 : 公開鍵暗号で安全に「共通鍵」を渡してしまい、その後は共通鍵を使って高速な暗号化通信を行います。
メリットとデメリット
メリット
- 安全な鍵配布
- 公開鍵を公開するだけでよく、
安全な鍵交換
が可能です。秘密鍵は受信者が保持するだけで済むので、鍵の管理や配布が容易です。
- 公開鍵を公開するだけでよく、
- デジタル署名の実現
- 送信者が自分の秘密鍵で署名し、受信者が公開鍵で署名を検証することで、
データの整合性
や送信者の本人確認
ができます。これにより、改ざん検知
や否認防止
が可能です。
- 送信者が自分の秘密鍵で署名し、受信者が公開鍵で署名を検証することで、
- セキュリティの強化
- 公開鍵と秘密鍵が異なるため、暗号化と復号が異なるプロセスとなります。これにより、秘密鍵の漏洩リスクを低減し、セキュリティを強化できます。
デメリット
- 処理速度が遅い
- 公開鍵暗号は、計算コストが高く、共通鍵暗号に比べて暗号化・復号の速度が遅いです。大量のデータを暗号化するには適していません。
- そのため、実際の通信では、鍵交換の部分で公開鍵暗号を使い、以降のデータ通信には共通鍵暗号を用いるハイブリッド方式が採用されます。
- 鍵の長さが長い
- 公開鍵暗号は、強度を保つためにより長い鍵を必要とします(例:RSAでは2048ビット以上が推奨)。これにより、計算負荷や通信量が増える場合があります。
- 秘密鍵の安全管理が必須
- 秘密鍵は絶対に漏れてはいけないため、厳重な管理が必要です。もし秘密鍵が盗まれると、全ての通信が危険にさらされます。
まとめ
- 公開鍵: 誰でも使える。データを暗号化するために使う。
- 秘密鍵: 自分だけが持つ。データを復号するために使う。
- 鍵の共有が簡単: 公開鍵を自由に配れるため、安全な鍵共有が可能。
- 暗号化と署名: 公開鍵で暗号化、秘密鍵で復号。逆に、秘密鍵で署名し、公開鍵でその署名を確認することもできる。
- 処理は遅い: 共通鍵暗号に比べて処理速度が遅いため、共通鍵を安全に渡すために使われることが多い。
公開鍵暗号は、インターネットの安全性を支える非常に重要な仕組みで、私たちが毎日使うウェブサイトやメールの通信を安全に保っています。
共通鍵暗号と公開鍵暗号の比較
項目 | 共通鍵暗号 | 公開鍵暗号 |
---|---|---|
使う鍵の種類 | 同じ鍵を使う(共通の鍵) | 公開鍵と秘密鍵のペア(2つの鍵) |
鍵の数 | 1つ | 2つ(公開鍵と秘密鍵) |
鍵の共有方法 | 事前に相手と共有が必要 | 公開鍵を誰にでも公開、秘密鍵は自分だけが持つ |
処理速度 | 速い | 遅い |
用途 | 大量データの暗号化に適している | 鍵交換やデジタル署名など、主に認証や小規模データの暗号化 |
安全性 | 鍵が盗まれると危険 | 公開鍵が漏れても問題なし、秘密鍵が漏れると危険 |
具体例 | AES、DES | RSA、ECC |
主な利点 | 暗号化と復号が高速で効率的 | 安全な鍵交換と認証が可能 |
主な欠点 | 鍵の共有が難しい、鍵の管理が複雑 | 計算が重い、鍵の長さが長い |
実際に使われている例 | Wi-FiのWPA2、VPN、ファイル暗号化ソフト | HTTPS、メールの暗号化(PGP)、デジタル署名 |